ステンレス鋼について >

鉄は赤錆を生じると内部まで朽ちて、ボロボロになってしまう。古い釘や、それこそ港で船を停泊させるときにロープとつなぐアレ(写真撮るとき、格好つけて片足を載せポーズをとるときの丸っこい鉄、ボラードと言うらしい)、茶色に錆びている。けれども身近な金属製品というと、スプーンやフォーク、調理器具など、これらは水に晒しても、熱が加わっても錆びにくい。

 

『錆びにくい鉄』=“Stainless Steel”=『ステンレス』

 

錆びない理由は、ステンレス自体が表面に不働態膜と呼ばれるバリア機能を発揮する保護膜を形成することにある。そのため錆びにくく、金属光沢を維持することができる。鉄(Fe)に対して、11%以上のクロム(Cr)を含有する合金鋼がステンレス鋼。このCrが酸素(O)と結合して形成する薄い酸化膜(厚さ数nm=10-6mm)がバリア機能を発揮し、内部までの酸素の拡散を防ぐことで腐食を抑制できる。さらに凄いのは、何らかの外力によって傷つけられて欠損した不働態膜は、新たに露出した表面にも速やかに形成される。そのため目に見えて錆びてこない凄い金属。Crの含有率が高くなると不働態膜はさらに強固になり、耐食性が向上する。

 

ステンレスはオーステナイト系、マルテンサイト系、フェライト系、オーステナイト・フェライト(二相)系、析出硬化系の5種類に分けられる。熱処理によって硬さを向上できるのがマルテンサイト系と析出硬化系。それ以外は焼入硬化性がないので硬さは低いものの耐食性に優れる。弊社ではオーステナイト系ステンレスに対して表面処理することが多い。

 

オーステナイト系ステンレスの代表格は、Fe、Cr、ニッケル(Ni)からなるSUS304。これにモリブデン(Mo)を添加することで耐食性をさらに向上させたSUS316L。これらは機械加工ではとっても厄介な材料。焼入硬化されないので軟らかく凝着しやすい。そして加工によって生じる熱が自身の耐熱性によって籠るので、放熱できずに加工温度は上昇していく。いわゆる、『難加工材』。そのため機械加工時は工具と直接接触することで凝着を生じるので、一般的には摩擦係数の低いTiCNやCrNなどのセラミックスコーティングを用いて凝着を抑制している。一方、耐食性を目的に、腐食環境下で使用される機械部品にも多く用いられている。機械部品なのでそれ自体が駆動したり、ワークがその上を移動するような部品の場合、カジリや摩耗が問題になる。コーティングでは前述のほか、炭素系薄膜のダイヤモンドライクカーボン(DLC)も課題解決の1つ。使用環境によってはコーティングの剥がれリスクが問題になる場合もあり、そのような場面では窒化処理が有効になる。ステンレス表面を硬化して、カジリや凝着が改善される。一般的な窒化処理ではオーステナイト系ステンレスの耐食性が大幅に低下する。これは窒化処理において表面の不働態膜を取り除かないと窒化が進まず、その窒化温度によってCrが窒素(N)と結合してCrNを形成する。すると、大気中のOとCrが不働態膜を形成できず、耐食性が低下してしまう。弊社の『マイクロナイト』は特殊な条件によって、一般的な窒化処理の耐食性低下を大幅に改善している。

 

ステンレスは幅広く使われているが、使用上の課題も多い。表面処理で解決したい場合、一度弊社に相談していただけたら良い解決法を提案できるかも知れません。